Skip to main content

信号処理の基礎

信号処理は、信号から情報を抽出したり、信号を加工してより利用しやすい形にする技術分野です。本章では、信号処理の基本概念から始まり、信号の分類、処理方法、システムの特性について学びます。

1.1 情報と信号

人間の情報

人間は五感を通じて様々な情報を取得します:

  • 視覚
  • 聴覚
  • 嗅覚
  • 味覚
  • 触覚

このような情報を機械で処理するために、周りの情報を「信号」としてシステムに入力する必要があります。

信号処理システム概要

信号処理は、信号から情報抽出、或いは信号を加工して綺麗に利用できるようになります。情報に対する処理は、推論、理解、解釈、認識、分析、変換 などがあります。

信号処理の応用分野

学問分野処理応用例
画像符号化、圧縮、認識、理解、画質改善、3次元処理ディジタルカメラ、ゲーム、超高精細テレビ、個人認証、バーチャルリアリティ、CG
音声符号化、圧縮、認識、合成、理解、音声改善スマートフォン、音声認識、音声合成、音源分離、自動会話
音響雑音制御、音場制御ディジタルオーディオ、ノイズキャンセラ、立体音響、電子楽器、補聴器、魚群探知
通信工学符号化、変調、復調、イコライザー、暗号化モバイルネットワーク、カーナビ、スマートフォン、アレーアンテナ、パケット通信
制御工学適応制御、最適制御、システム同定、ファジィ制御、ニューラルネットワーク制御、自動車制御ロボット制御、シーケンス制御、プロセス制御、エンジン制御、アクティブサスペンション、アンチロック・ブレーキ
計測工学センサ工学、超音波計測、光計測センサ信号処理、GPS
医用工学脳波計測、CT、MRIBMI、遠隔手術、医療用ロボット、パワーアシスト機器
地球科学衛星観測、地震波解析天気予報、地震予知、電波望遠鏡、火星探査
経済学時系列処理、ビッグデータ処理、機械学習株価予測、経済予測、トレンド予測

1.2 信号の分類

信号には、大きく分けて時間成分振幅成分の二つの成分があります。

信号のタイプ

  • アナログ信号
    自然界における時間成分と振幅成分の両方が連続なもの
  • サンプル値信号
    時間成分のみが離散化される
  • ディジタル信号
    時間成分と振幅成分の両方が離散化される
  • 多値信号
    振幅成分のみが離散化される

信号の分類

信号の特徴

各信号タイプは、処理方法や応用分野に応じて使い分けられます。現代の多くのシステムでは、アナログ信号をディジタル信号に変換して処理することが一般的です。

1.3 アナログ信号処理とディジタル信号処理

アナログ信号処理

信号は抵抗やコンデンサ、コイル、トランジスタ、そしてオペアンプなどのアナログICから構成される回路で処理されます。

特徴

  • 連続時間での処理
  • ハードウェア依存
  • リアルタイム処理に適している
  • 回路設計の複雑さ

ディジタル信号処理

ディジタル信号処理は、以下のステップで実行されます:

1. 前処理

入力したアナログ信号にまずアンチエイリアスフィルタ(anti-aliasing filter)と呼ばれる低域通過フィルタを通り、不要な高周波数成分が除去されます。

2. A/D変換

  • サンプリング(標本化)
  • 量子化
  • 符号化
    量子化された値を特定の符号に変換する場合があります。

3. ディジタル信号処理

数値或いは符号に変換された入力信号は、ディジタル信号処理プロセッサ、あるいは専用のハードウェアにおいて所定の処理が施されます。

4. D/A変換

D/A変換器によって再びアナログ信号に戻されます。

ディジタル信号処理の流れ

ディジタル信号処理の利点
  • プログラマブルな処理
  • 高精度な処理が可能
  • 複雑な処理アルゴリズムの実装
  • 複製や保存が容易

1.4 信号処理システムの分類

信号処理システムは、様々な観点から分類することができます:

着目点分類
時間成分の連続性連続時間システム or 離散時間システム
線形性線形システム or 非線形システム
時不変性時不変システム or 時変システム
因果律因果的システム or 非因果的システム

システム特性の詳細

線形システム

  • 重ね合わせの原理が成り立つ
  • 入力の線形結合に対して出力も線形結合となる

時不変システム

  • システムの特性が時間に依存しない
  • 入力信号を時間的にシフトしても、出力は同じ時間だけシフトされるのみ

因果的システム

  • 現在の出力が現在および過去の入力のみに依存
  • 実時間処理において重要な特性

まとめ

本章では、信号処理の基礎概念について学びました:

  1. 信号とは:情報を伝達する物理量
  2. 信号の分類:アナログ、ディジタル、サンプル値、多値信号
  3. 処理方法:アナログ処理とディジタル処理の特徴と違い
  4. システム特性:線形性、時不変性、因果性などの重要な性質

次章では、これらの基礎概念を踏まえて、具体的な信号処理手法について詳しく学んでいきます。

参考

信号処理は現代の工学において必須の技術であり、制御工学、通信工学、画像処理、音声処理など幅広い分野で応用されています。